春に向け、家族の祝いや節目を迎えるかたも多いことでしょう。コロナ禍の記念日旅行は、心身を整えながら、ちょっぴり贅沢でプライスレスな体験をしたいもの。今回は、そんな記念日滞在にもおすすめしたい、東京・大手町にある日本旅館「星のや東京」へ旅行ジャーナリストの村田和子が夫婦で滞在。最新情報をレポートします。
旅館ならではの季節を感じる空間やもてなしは、緊張した心身をほぐし、天然温泉や「発酵」がテーマの食は免疫力を高めてくれます。地上160mのビルの屋上で実施する「天空深呼吸」は、コロナ禍だから生まれたプレイスレスな体験。三密回避を徹底しながらサービスは進化し、スタッフの温かなホスピタリティはそのままに。大切な人と絆を深める滞在にぴったりです。
* * *
東京の真ん中にある、塔の日本旅館「星のや東京」
星のや東京は、大手町のオフィス街に佇む17階建てのビルディング。「ここが日本旅館?」という印象ですが、青森県産ヒバを用いた大きな扉の向こうは別世界。見上げる天井は格天井、壁面は竹や栗の木を編んだ意匠が美しく、白檀の香りが漂い、正面には季節の室礼が整えられた和の空間が広がります。

中は別世界で全館畳敷き。玄関の天井は高さ約6mと圧巻
靴を脱ぎ素足で館内へ入ると一気に旅気分が高まります。拍子木の音とともに到着したエレベーターへと乗り込み、他のお客さんと会うこともなく、そのまま客室へ。

コロナ禍となり、チェックインは客室で行うスタイルに変更となりました
◆客室は急須からアメニティまでこだわり満載
客室は和紙やヒバ、栗、竹など自然素材が内装に使われ、しょうじには外壁の江戸小紋「麻の葉くずし」の影が揺れるのが印象的。しょうじを開けると人の姿もまばらなオフィスビルが目に入り、コロナの影響で変わりゆく東京の姿を感じます。

「菊」の客室は広さ80平米、ダイニングテーブルやウォークインクローゼットもあります

江戸小紋「麻の葉くずし」の外装は、意匠だけではなく目隠しの役割も
小上がりにはローベットが配され、その枕元には、満月なら明るく、新月なら暗めにというように、月の満ち欠けで、客室の明かりをコントロールする粋な演出も。
茶器の急須は南部鉄器、館内着は着物をイメージしているなど、日本の伝統を取り入れた調度品やアメニティが目を引きます。

館内着はジャージ素材で着物デザイナー斎藤上太郎氏のデザイン
各フロアの中央には、フロアにある6つの客室専用の「お茶の間ラウンジ」があり、セルフでコーヒーや日本茶、冷蔵庫の飲み物、こだわりのお菓子などを自由に楽しめる空間になっています。

お茶の間ラウンジ。滞在中、他のお客さんと会うことはありませんでした

飲み物やこだわりのお菓子
書籍や昔懐かしい玩具などがあり、我が家はソファでゆっくりとお茶をいただきながら、スタッフお手製の江戸をテーマにしたすごろくに興じました。

スタッフが作ったすごろくには、界隈の老舗名店のおみやげ情報も
客室ドアには、オートロックを解除するスイッチがあり、鍵をもたずに畳の廊下を行き来して、お茶の間ラウンジへアクセスできます。
地下1500mから湧き出る天然温泉に癒される
温泉が好きな夫が楽しみにしていたのが、地下1500mから湧き出る「大手町温泉」。スマ-トフォンで混雑状況を確認してから、最上階の温泉へと向かいます。温泉は、夜も通して利用できるので密になりにくく、脱衣所では空気清浄機も配され三密回避もばっちり。

温泉大浴場の入り口。リラクゼーションルームも完備
男女別の大浴場は内風呂から続くように露天風呂が配され、高さ15mの壁の先には、四角い空が広がっています。褐色でとろみのあるナトリウム-塩化物強塩温泉は、肌をベールのように包み、保温効果が高く、入浴後は体もぽかぽか。疲労回復にも効果があるといいます。

時間とともに変わる空の移ろいを楽しめるデザインは、まるでアート作品のよう
江戸を感じるアクティビティや日本酒の飲み比べ
フロントのある2階ラウンジでは、アクティビティ(無料)を実施。手ぬぐいなどの染めに使う柿渋の江戸型紙を用いた「和紙への染め付け体験」、色紙を折り、型にあわせてカットする「紋切体験」などがあり、夫とさっそく挑戦してみることに。

2階のラウンジでも時間帯に応じたドリンクなどの提供があります

コロナ禍でおこもり滞在が増え、アクティビティの種類も増えたそう

絵心に自信のない夫も夢中に。「いい感じにできた」とご満悦
◆夜になるSAKEラウンジがオープン、雅楽の演奏も
作品に没頭すると時間が過ぎるのが早く、頭の片隅にあるコロナへの不安もどこかへ飛んでいくよう。終わったあとは気持ちもすっきりとして、できた作品に達成感も味わえます。夫婦でじっくりと何かに集中する機会は、日常ではなかなか持てず、なんだか新鮮! 他愛ないやりとりを通して絆が深まるのも感じます。出来上がった作品は、心地よいときを思い出す旅の記念になります。

小さなお子さんから年配のかたまで楽しめます
18時から21時には、SAKEラウンジがオープン(無料)。3種類の日本酒は飲み比べもでき、おススメのおつまみと一緒に頂けます。フロントラウンジには、伝統工芸品やオリジナルグッズを扱うショップがあり、週末には雅楽の演奏も実施。館内にいながら日本文化、江戸から続く伝統に触れることができるのも、星のや東京の魅力です。

SAKEラウンジ。季節により提供するお酒はかわるそう。金婚純米吟醸 江戸酒王子(豊島屋酒造:東京)

飲み比べも楽しめます
毎週、金、土、日の週末は、雅楽の演奏も行われ、日本文化も共に楽しめます。
「Nipponキュイジーヌ~発酵~」は、目でも楽しめ免疫力もアップ!
夕食は地下1階にある、星のや東京「ダイニング」をチョイス(コース料理1万8000円<税サ別>)。日本の食文化とフレンチの技法を融合させた「Nipponキュイジーヌ」は、星のや東京のダイニングでのみ提供されるオリジナル。現在はコロナに負けず内側から元気になるように免疫力を高める「発酵」がテーマの料理が提供されています。

ダイニングは地層がテーマのデザイン
日本各地の「発酵食品」を、星のや東京の料理長・浜田統之氏が自ら足を運び選定、フレンチの技法でアレンジしたとあって、どれも独創的で発見が多くあります。浜田氏の料理は、味はもちろんプレゼンテーションも楽しみのひとつ。始まる前からワクワクします。

「星のや東京」料理長の浜田統之氏。国際大会ボキューズ・ドール国際料理コンクールで日本人として初の総合銅メダルを獲得
◆「5つの意思」と名付けられたシグネチャー料理
フグの身と卵巣の粕漬けを、通常は肉料理で利用することの多いマデラソースとトリュフであわせパイで包んだ一品「稀:ふぐの白子のパイ包み」からコースはスタート。続いて提供されるのは、「5つの石」ならぬ、「5つの意思」と名付けられた、浜田料理長のシグネチャー料理です。

「5つの意思」。それぞれの石は料理に合わせて温度も違います。左奥から、小肌のルーロー、ビスク、ほっけのプランダート、いかのメルゲーズ、黒豆のレバーペースト
「酸・塩・苦・辛・甘」という五味を、小さな料理に詰め込んだ料理は、見た目も繊細でかわいらしく、食べるのがもったいなく感じるほど。「発酵」がテーマという通り、小肌のルーローは柿酢のシートで巻かれ、いかのメルゲーズには、新潟の調味料「かんずり」を用いるなど、それぞれの料理には、古来から親しまれた発酵食品が取り入れられています。
そして、メイン料理はお品書きに「驚:牛」とある一品。塩こうじに漬けて柔らかく煮込んだ牛肉と野菜に、目の前で鶏ベースの出汁をかけて完成します。

出汁をかけると、いい香りが立ち込めて食欲がそそられます
牛肉はほろほろで柔らかく、優しい味わいのスープとの愛称も抜群。お品書きに「驚」とある通り、中に隠れている「あるもの」を混ぜると、スープがきれいなルビー色に。味わいも洋風へと変化するさまが楽しめます。
添えられたカトラリーにも注目を。ナイフとフォークは福井の龍泉刃物とのコラボで、星のや東京オリジナル。ナイフの持ち手は貴重な本煤竹を利用したものだといいます。

カトラリーや食器なども、日本各地から厳選しているので、ぜひ注目を
柑橘類が主役のデザートは、見た目も美しく、ショウガや日本酒ジュレ、ヨーグルトのアイスクリームなど、さまざまな味わいが複雑に絡みながらも、さっぱりとした味わい。

デザート「改:柑橘」
続いて運ばれてきた2つめのデザートは……わたあめで作られたかわいらしい雪だるま! 中に、いちごのデザートが隠れているのですが、どのように登場するかは、食べるときのお楽しみに。

プレゼンテーションも楽しめる「融:冬の贈り物」
前菜からデザートまで7つのお料理は、お腹も心も満たしてくれて、大満足。レストランは個室、あるいは十分な換気対策を講じた席でいただけますが、インルームダイニングでもディナーメニューを提供。好みに応じてチョイスされるといいでしょう。
朝食は、客室で楽しめます。

おむすび(無料)の他、和と洋の2つの朝食メニュー(有料)も

写真は和食(4000円<税サ別>)
地上約160mでのプライスレスな体験「天空深呼吸」
早起きをして、ぜひ体験したいのが「天空深呼吸」(要予約:無料)。なんとアクティビティの舞台は、高層ビルの最上階、地上160mとあって、向かう道中からテンションがあがります。

高層ビルの屋上からは360度の景色が広がり、中でも東京スカイツリーがそびえる姿は素晴らしい!
◆マスクを外して絶景を前に深呼吸
十分な距離を保てるため、マスクを外してもOKとのことで、絶景を前に大きく深呼吸。外でこんなにすがすがしい体験をしたのは、コロナ禍になってから初めて! 刻一刻と街や空の色が変化する幻想的な光景をみながらのストレッチは、体だけではなく、心まで柔らかく元気にしてくれます。星のや東京に宿泊したら、ぜひ体験したい一押しのアクティビティです。

「天空深呼吸」:空を飛んでいるかのようなポーズも
残念なことに、安全上の理由からカメラやスマートフォンの持ち込みができません。プライスレスな体験は、ご自身の目と心に焼き付けてお持ち帰りください。
東京を再発見するアクティビティは記念日に最適
星のや東京では、舟遊び、人力車、2階建てのオープントップバスなど、見慣れた東京の街を新しい角度から眺め、魅力を再発見できるアクティビティ(有料)が用意されています。近くには、皇居の東外苑、江戸時代の名残がある歴史的な街など、散策も楽しい場所。お江戸マイスターに相談すれば、好みに応じたオリジナルなコースや体験を提案してくれるそう。

記憶に残るアクティビティで記念日を祝ってみては?

人力車では写真も撮影してくれます

東京絶景ナイトバスクルーズ。2階建てのオープントップバスで東京の街へ

記念日には、星のや東京から「お祝いのおもてなし」も
星のや東京での滞在は、日本各地、あるいは時代をさかのぼって旅をしているような気分になります。思うように出かけられないコロナ禍だからこそ、絆を深めに、あるいは心身のメンテナンスに、親しいかたと訪れてみてはいかが?
【DATA】
■「星のや東京」
住所:東京都千代田区大手町一丁目9番1
アクセス:東京駅丸の内北口より徒歩10分 /営団地下鉄 大手町駅 (A1、C2c出口より徒歩2分)
料金:1泊1室 8万4000円〜(税・サ別、食事別)
※ 1泊2食プランもあり(2名一室の1名あたり料金)
夕食/星のや東京「ダイニング」 1名・4万3200円(税・サ別)~
夕食/部屋食 1名・3万7200円 (税・サ別) ~
https://hoshinoya.com/
■「お江戸マイスター」
https://hoshinoya.com/tokyo/experience/oedo/
■「星のや東京ダイニング」
星のや東京 BF階 (宿泊者専用、要予約)
料金:ディナーコース 1万8000円(税サ別) /インルームダイニング 星のや東京御膳8000円(税サ別)
https://hoshinoya.com/tokyo/dining/
教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん
旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表。(https://www.travel-k.com/)旅ブログも行っている。(http://www.murata-kazuko.com/)
●コロナ禍の都会でリゾート気分!国立競技場の目の前で自然とアートの旅「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」