江戸時代の美容本に学ぶスキンケア術|今こそマネしたい美容法と絶対にやってはいけない方法

「生まれながらの美人などめったにいない。化粧の仕方、表情で美人に見えるのだ」――日本最古の美容本の記述も、現代人と価値観はそう変わらない。約400年も前から、女性たちは美しくなるため日夜努力を続けてきた。その歴史をひもといてみよう。

江戸の美容本に書かれたキレイな女性の条件

面長で鼻筋がすっと通り、目は切れ長でおちょぼ口、ツヤツヤと輝く白い肌――これが、江戸時代の美人の条件だった。

当時、女優やモデル、アイドルのように庶民の美のお手本になっていたのは、歌舞伎の女形や売れっ子遊女たち。彼ら彼女らの着物の柄、着こなし、色、髪形、そして美容法や化粧などを、一般の女性たちはこぞってマネしていたという。

三代歌川豊国「江戸名所百人美女 柳はし」

三代歌川豊国「江戸名所百人美女 柳はし」(画像/国立国会図書館デジタルコレクション)

◆現代のファッション誌と変わらない

江戸時代後期に出版された、女性の美容についてまとめられた『都風俗化粧伝』には、小さな目を大きくする化粧、大きな目を小さくする化粧、鼻を高くするおまじないまで記されている。

同じく江戸時代の実用・教訓書である『女重宝記』にも、女性の日常生活に必要な知識や作法などがまとめられており、「女にとっていちばん大切なのは髪。きれいな髪は朝晩の心がけから」と記されている。その内容はさしずめ現代のファッション雑誌。江戸時代の美容事情から学べることは意外にも多い。

江戸の庶民は手作りコスメが一般的

江戸の女性も、現代の女性と同じように、洗顔、化粧水、白粉を欠かさなかった。『女重宝記』にも、「女と生まれては一日も白粉を塗らず素顔にあるべからず」と書かれているほど、肌を白く美しく見せることに必死だったのだ。

化粧心理学者の平松隆円さんが言う。

「肌が白いのが美人という美的感覚は、現代に通じます。当時は白粉に少しだけ紅をまぜて、真っ白ではなく、ほんのり桜色の色白肌がいいとされていました」

◆200年前の化粧水

白粉の下地には、化粧水を使うのが一般的だったという。

約200年前、戯作者で薬屋も営んだ式亭三馬が、化粧水『江戸の水』を売り出した。ガラス瓶入りで、桐の小箱に入ったおしゃれな化粧水は大ヒット。初代・松本幸四郎は化粧品屋も営んでおり、『岩戸香』のブランド名で、白粉とヘアオイルを販売していた。ただし、こうした“市販品”が手に入るのは、裕福な女性だけだったという。

「白粉の後にまゆ墨と紅をさしますが、紅は金に匹敵するほど高価なものでした。そんな高価な紅を、緑がかった玉虫色に輝くまで唇に塗り重ねるリップメイクが流行しましたが、よほど裕福でなければできなかったため、多くの女性は紅の下地に炭を塗って、緑がかったように見せる工夫をしていました」(平松さん・以下同)

へちま

写真/ゲッティイメージズ

一般の女性は、へちまの茎から採れるへちま水を化粧水として使い、洗顔料には米ぬかやうぐいすのフンを使っていた。

現在もこれらを使った化粧品が市販されているのは、約400年も前の女性たちの“お墨つき”というわけだ。

洗顔方法には注意が必要なものも

『都風俗化粧伝』には、手づくり洗顔料も紹介されている。くず粉、白檀、龍脳、緑豆、生薬、鉱物の滑石などを粉にしたもので顔を洗うと、きめ細かく、白玉のような肌になると記されている。

『肌のきれいな人がやっていること、いないこと』(あさ出版)の著者で菜の花皮膚科クリニックの菅原由香子さんは、この洗顔方法について「マネしてはいけない」と忠告する。

「白檀は殺菌作用が強すぎて刺激になるうえ、白檀オイルは、アレルギーを生じさせやすい。龍脳は防虫に使うものですし、滑石はアスベストに似た性質で、誤って吸い込むと肺に悪影響が出るおそれがあります。緑豆の酵素やイソフラボンは肌にはいいですが、粒がスクラブのような作用で肌を傷つける可能性があり、おすすめできません」(菅原さん・以下同)

◆イソフラボンを多く含むくず粉

くず粉

写真/ゲッティイメージズ

一方で、くず粉は美肌効果が期待できるという。

「くず粉には大豆以上のイソフラボンが含まれており、高い抗酸化作用が期待できます」

現代医学も認めるお歯黒と日本髪

江戸時代の化粧といえば、既婚女性が歯を真っ黒に塗るお歯黒。その成分は、植物のタンニンを主とする「ふし粉」と、酢酸第一鉄を主成分とする「鉄漿水」だ。現代人の美的感覚では信じられないが、当時の女性にとっては、単なる化粧ではなかった。

「お歯黒は平安時代からの風習です。永久歯が生えてくると、成人儀礼と魔よけの意味を込めて歯を黒くしていました。平安時代は永久歯が生える年頃で結婚する人が多かったのが、江戸時代になると、いつの間にか〝結婚した女性がお歯黒にする〟という風習に変わっていったのです」(平松さん・以下同)

漆黒の歯が美しいとされていたが、お歯黒は実用性も兼ね備えていた。

「お歯黒の成分には、虫歯を予防する効果がありました。お歯黒をもとに開発されたフッ化ジアミン銀(サホライド)は、虫歯予防薬として、現代の歯科治療でも使われています」

◆理想的な湯シャンが基本

お湯で髪を洗い流す女性

写真/ゲッティイメージズ

月に数回しか洗髪できない日本髪も、毎日シャンプーするのが当たり前の現代人からすると堪えられないことだが、菅原さんは「シャンプーはできるだけ使わない方がいい」と話す。

「市販のシャンプーの多くに含まれる合成界面活性剤は、必要以上に頭皮の脂を奪います。すると乾燥した皮膚はそれまで以上に脂を分泌し、余計にベタついたり、頭皮や髪のトラブルにつながる。

頻度は別として、本来なら、江戸時代の女性たちのように、お湯だけで洗うのが理想なのです。最初は頭皮がベタベタしますが、それはだんだんおさまってきます。においが気になるなら、界面活性剤が入っていない石鹸や粉シャンプーを使うことをすすめます」(菅原さん・以下同)

江戸時代は、海藻の「ふのり」とうどん粉をといたお湯を洗髪剤として使うことがあったという。ふのりが汚れを吸着して、うどん粉が汚れをつきにくくしていたのだと考えられる。

驚いたことに、江戸時代には“コラーゲンパック”も存在した。

「豚の爪4つをよく洗ってから、米のとぎ汁で煮つめ、顔に塗って眠り、翌朝洗い流すとしわがなくなる」というものだが、菅原さんは「効果は期待できない」と言う。

「残念ながら、豚のコラーゲンの分子はとても大きいので、肌から吸収されることはありません。ただし、皮膚にコラーゲンの膜ができて、一時的に潤って見える効果はあるでしょう」

「ごま油」「米のとぎ汁」でしっとり保湿

江戸時代の美容本によく登場する“肌にいい素材”は、卵の白身、ごま油、米のとぎ汁の3つだ。いずれも肌にいい成分を含む食品だが、卵だけは絶対に使ってはいけないという。

「江戸時代には”卵の白身を肌に塗って眠り、翌朝洗い流すと少女のような肌になる”という美容法があったそうですが、絶対にマネしないでください。卵はアレルギーを発症するリスクが高いため、そのリスクを冒してまで実践するメリットはありません」

一方で、化粧下地やパックとして使われていたごま油は、アレルギーがなければ試してみる価値はありそうだ。

ごま油

写真/ゲッティイメージズ

「ごま油に含まれるゴマリグナン(セサミン、セサミノール)という抗酸化物質がシミを予防し、ビタミンEが血行を改善します。

また、ほかの油と比べると、にきび菌のえさになるオレイン酸が少なく、脂性肌の人も乾燥肌の人も使いやすい。茶色いごま油は香りが強いので、スキンケアに使う場合は、生のごまを搾った白いごま油を選ぶといいでしょう」

女優の安達祐実は、あるインタビューで温めた白ごま油をボディーオイルとして入浴後に使っていることを明かして話題になった。

米のとぎ汁にも美肌効果があるという。

「米ぬかや米のとぎ汁にはビタミンB群、C、Eが含まれており、特にビタミンEが血行を改善してくれるほか、『コメヌカスフィンゴ糖脂質』は天然の保湿成分。また、肌の常在菌のバランスを整える植物性乳酸菌も豊富です。ただし、江戸の女性のように顔に塗ったまま眠るようなことはせず、顔にとぎ汁が残らないよう、きちんと洗い流してください」

◆アレルギー発症に気をつけて

肌にいいものは、いまも昔も変わらない。だが、江戸時代と大きく違うのは、現代人はアレルギーの発症率が高いということだ。

「日本人の腸内環境が悪化し、アレルギーを発症する人が急増しています。

いまはアレルギーがなくても、皮膚に直接つけたことで急にアレルギー反応が出る場合がある。特に、卵・小麦・牛乳の3つは、アレルギーを起こしやすいので、肌にいいからといって顔や体につけるのは絶対にやめてください。米ぬかやごま油、豚のコラーゲンなども、アレルギーを起こす可能性はゼロではありません」

現代人に負けない、江戸の女性の美意識の高さ。正しい知識を持ったうえで、先人に倣いたい。

いまでも役立つ!?江戸時代の美容法一覧

江戸時代に行われていた美容法をまとめて紹介。おすすめは◎、大丈夫は〇、効果不明は△、危険なものは×で評価しています。

◆洗顔

・米ぬか ◎ 汚れを落としやすくする脂肪酸ナトリウム、肌を保湿する植物性セラミドが含まれる。ぬか袋は現在も市販されている。

・うぐいすのフン ◎ リゾチームなどの加水分解酵素が含まれるため、角質などをやわらかくしてくすみが取れ、美白効果がある。洗顔料などが市販されている。

・白檀、緑豆、龍脳、滑石、くず粉などでつくった洗顔料 × 白檀は殺菌作用が強すぎ、龍脳は肌に使うのに適さない。滑石はアスベストに組成が近い。くず粉、緑豆はイソフラボンが豊富だが、スクラブ作用が肌を傷つける可能性があり危険。

◆化粧水

・へちま水 ◎ 抗酸化作用、抗炎症作用があり、美白効果も期待できる。現在は市販されている。

◆パック

・豚足を煮詰めたパック △ 皮膜作用で肌がきれいに見える効果はあるが、豚足のコラーゲンは肌からは吸収できない。またアレルギーの危険性もゼロではない。

・卵白でパック × アレルギーの危険性があるので絶対にやってはいけない。

・ごま油の化粧下地やパック ◎ 抗酸化力が強く、アンチエイジング作用が期待できる。ビタミンEによる血行促進作用も。においの弱い白ごま油なら、入浴後のボディーオイルとしての使用がよい。

・米のとぎ汁のパック ◎ ビタミンB群、C、Eが豊富で、コメヌカスフィンゴ糖脂質という植物性乳酸菌は天然の保湿成分。米のとぎ汁で顔を洗ってしっかり洗い流せば美肌効果は期待できる。

◆ヘアケア

・ふのり、うどん粉のシャンプー △ 効果のほどは不明。

・椿油 ◎ 不飽和脂肪酸が豊富で、肌や髪をやわらかくして皮脂バランスを整える。現在も市販されている。

◆その他

・お歯黒 ○ 虫歯予防、虫歯の進行を止める作用があり、現在も歯科医療の現場で同じ成分が使われている。

※女性セブン2021年1月21日号
https://josei7.com/

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