中高年女性に多い甲状腺眼症|バセドウ病との関係は?医師が解説する症状と治療法

この9月に受けた甲状腺眼症(こうじょうせんがんしょう)の手術が無事に成功した、渋谷スキンクリニック院長の吉田貴子さん(48才)。自身が発病したことで、同じ病気で悩んでいる多くの女性がいることを知った吉田さんは「私の体験が皆さんの参考になったらうれしい」と話す。吉田さんを襲った甲状腺眼症は中高年女性にも多い病気の1つ。その症状や原因、最新の治療法とは──。

眼の手術風景

甲状腺眼症の手術の様子(写真提供/オキュロフェイシャルクリニック東京)

甲状腺眼症の症状とは?

今回、吉田さんが発病した甲状腺眼症は、バセドウ病を患うことで起こる合併症だが、そのバセドウ病について、せきや内科クリニック院長で日本甲状腺学会甲状腺専門医の関谷健一さんは、次のように説明する。

「バセドウ病は、全身の代謝を司っている甲状の腺ホルモンの分泌が過剰になり、動悸や息切れ、多汗、イライラ、食べてもやせてしまう、眼球突出などの症状が起こる、20~40代の女性に多い病気です」

◆バセドウ病を発症、合併症の甲状腺眼症に

吉田さんがバセドウ病を発症したのは31才のとき。自身のクリニックを開院した直後のことだ。

「忙しい時期だったので、初めは気づきませんでした。でも、喉が渇き、食べてもやせてしまうのでおかしいと思い、検査をしたらバセドウ病でした。その後、薬で甲状腺ホルモンの数値が安定。バセドウ病の多くの症状は改善しましたが、合併症の甲状腺眼症による眼球突出は改善しませんでした。ですが、仕事も忙しくて、よい治療法もわからなかったので、それ以上の治療はせず、そのまま放置していたんです。病気のことを知らない人からは『目がこぼれ落ちそう』と言われ、傷つくこともありましたね」(吉田さん・以下同)

そして、今年になって甲状腺眼症の手術について調べたところ、歴史のある眼窩骨の削骨治療のほかに、新しい治療として眼窩脂肪の減量を行い、眼球突出を改善する眼窩減圧術という治療法があることを知ったという。

◆眼球突出を改善する眼窩減圧術という手術

「新しい手術法のため、賛否があることもわかりました。執刀してくださった鹿嶋友敬先生の説明では、失明率が1%と聞き、当然、不安にもなりました。でも、実際に手術をしたら、当日は目がかすんだものの、翌日には両目の焦点が合い、映画館で映画を普通に見ることもできました」

さらに、目の充血や目のまわりの内出血はあったものの1週間ほどで、ほとんど目立たない状態に回復したという。

「眼球突出もきれいになくなり、顔を洗ったときの目元の感覚がまったく違うので、本当にうれしかったですね」

甲状腺眼症を引き起こすバセドウ病とは?

「甲状腺疾患の罹患者は女性に多い」と関谷さんは言う。

「ある調査で40才以上の成人女性の約20%に何らかの甲状腺疾患がみつかったという報告があるほど、男性に比べ、圧倒的に女性がなりやすい病気といえます。その中のバセドウ病患者の比率は、女性が男性の約4倍です」(関谷さん・以下同)

バセドウ病チェックリスト

◆バセドウ病の原因には遺伝も

一般的に、バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気だが、その原因ははっきりわかっていない。

「自己免疫疾患の一種で、体の免疫の仕組みに異常が起こり、自己抗体(TRAb)ができて、甲状腺ホルモンが過剰に作られてしまいます。稀にですが、バセドウ病でも甲状腺機能が低下しているケースもあります。バセドウ病の原因は解明されていませんが、3割程度は遺伝するといわれています」

バセドウ病の主な症状は、上記のチェックリストの通りだが、これらの症状は、更年期障害にも似ているため、気づかないまま見過ごす人も多く、発見が遅れてしまうこともあるため注意が必要だ。

その中の1つ、「目が飛び出る」症状が、吉田さんが患った甲状腺眼症だ。

「甲状腺眼症についてもはっきりとした原因はわかっていませんが、バセドウ病と同じ抗体が目のまわりにも働き、筋肉が膨らみ、脂肪が増えてしまい、眼球突出が起こると考えられています」

バセドウ病の治療の第一歩は薬物療法だが、甲状腺ホルモンを抑える薬を服用し、甲状腺ホルモンの数値が安定しても、眼球については一度突出してしまうと薬をのんでも改善しない。それにもかかわらず、バセドウ病の患者は、「バセドウ病の内服薬をのめば、眼球突出も改善する」と思っている人が多いという。

バセドウ病と甲状腺眼症は別々に治療が必要

吉田さんの甲状腺眼症の手術を執刀した、オキュロフェイシャルクリニック東京院長の鹿嶋友敬さんもこう警鐘を鳴らす。

「バセドウ病と甲状腺眼症はまったく別物と考え、どちらも並行して治療することが大切です。甲状腺眼症は、かぜなどの病気と違って自然治癒はせず、放っておくと元に戻らないまま固定化してしまうのです」(鹿嶋さん・以下同)

つまり、バセドウ病を患った場合は、内科での治療と眼科での治療を早期に並行して行うことで、甲状腺眼症の悪化を防ぐことができるのだ。

甲状腺について説明する解説図解

◆甲状腺眼症の経過は活動期と非活動期

「甲状腺眼症の経過は、活動期と非活動期に分かれます。活動期は、脂肪や筋肉など眼窩の組織が腫れて、炎症が起こります。非活動期は、炎症が生じていない時期です。眼球突出などの症状は、発症後半年でピークとなり、その後は炎症が徐々に消退し、1~2年程度で非活動期に入って症状が固定化します」

活動期は、眼窩の脂肪や筋肉などが腫れて眼球が突出してくるが、その目つきの変化は、印象が悪くなる方向に働くことがほとんどだという。

また、眼球突出によってまぶたの脂肪も圧迫されて、上のまぶたが腫れているように感じたり、下のまぶたにくまができたように見えることもある。

◆まぶたが腫れる、白目が充血するなどの症状

「甲状腺眼症の症状は、眼球が突出するほかに、まぶたが腫れる、まぶたがつり上がる、白目が充血するなどの症状があり、私の場合も甲状腺眼症の発症前と後では顔が変わっていました。眼球突出は、なぜか片目だけ起こる人もいますし、目つきがきつくなるので、外出するのが嫌になったり、写真を撮らなくなったり、人とのおつきあいをしなくなってしまう人も多いんです」(吉田さん)

こうした見た目の変化だけでなく、より深刻な症状を引き起こすことも多い。

「目が大きくなるため、目を閉じづらい状態になってドライアイになります。眼球を動かす外眼筋が腫れて、筋肉の伸び縮みがうまくできなくなると物がダブって見えたり、神経を圧迫して視力障害をきたすこともあります。当院の患者さんの傾向を見ると、40才以下では眼球突出をきたす人が多く、60才以上で外眼筋が腫れて斜視や視力障害を患う人が増え、発症年齢によっても症状が異なっています」(鹿嶋さん・以下同)

甲状腺眼症の主な治療法

では、甲状腺眼症の治療にはどのようなものがあるのか。まずは活動期にステロイドの投与と放射線治療を行うことで、悪化を防ぐことが大切だという。

◆ステロイドの投与と放射線治療で悪化を防ぐ

「ステロイドは、自己免疫疾患や炎症疾患に有効な薬剤なので、ステロイドの大量点滴療法(パルス療法)や内服治療を行います。放射線治療は、目の周囲に10回程度放射線を当て、炎症を沈静化させ活動性を抑えます。使用する放射線の線量は、がん治療などで使う線量と比べると3分の1程度なので、一般的に副作用は少ないといわれています。ただし、これらの治療は悪化を防ぐためのもの。すでに慢性化したものにはあまり効果がありません。だから早期の治療が必要なのです」

◆喫煙習慣に注意

これらの治療に加え、気をつけなければならない生活習慣は、喫煙だという。

「喫煙は、重症化させることがはっきりわかっていて、喫煙本数に比例して症状が悪化します。せっかくステロイドや内服などの治療をしても、炎症を抑える効果が得られにくくなってしまうのです。甲状腺眼症の患者さんはもちろん、甲状腺機能の異常が見つかった場合は、必ず禁煙してください」

その後、非活動期になって眼球突出などの症状が残った場合は手術となる。

そのほかの主な甲状腺の病気

バセドウ病のほか、主な甲状腺の病気には、以下のような病気もある。

→甲状腺の疾患について詳しくはコチラ

◆橋本病

多くの場合、ほぼ症状はないが稀に甲状腺眼症を発症することも。

【原因と症状】
甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気で、30~40代に多い。ほとんどの場合、甲状腺機能は正常に保たれており、症状は出てこない。慢性甲状腺炎が進み、甲状腺組織が破壊され、甲状腺ホルモンが不足した状態になるとむくみや冷え、脈が遅い、体重増加、食欲不振、眠気、便秘などの症状が出る。稀に甲状腺眼症を発症することも。

【治療】
橋本病になっても、症状のない場合は治療不要。甲状腺機能が低下している場合は、甲状腺ホルモン製剤でホルモンを補充する必要があるので、定期的に通院し継続的に服用することになる。

橋本病チェックリスト

◆甲状腺腫瘍

ほとんどが良性だが稀に悪性のことも。

甲状腺にしこりができる状態。バセドウ病や橋本病のように全体的に腫れる「びまん性甲状腺腫」とは異なり、部分的に腫れる。診断を行い、悪性の場合はアイソトープ治療や手術で治療する。甲状腺腫瘍は悪性の場合でも、比較的進行が穏やかなものが多く、治療をすれば治りやすいといわれている。

◆その他

バセドウ病と似た症状を伴うものも。

バセドウ病と同じような症状になるのが、無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎。無痛性甲状腺炎は何らかの原因で痛みのない炎症が甲状腺に起こるが、時間とともに正常化する。亜急性甲状腺炎は発熱や甲状腺の痛みを伴うので、炎症を抑える薬を服用する。

渋谷スキンクリニック院長・吉田貴子さん

渋谷スキンクリニック院長・吉田貴子さん

帝京大学附属病院皮膚科などを経て、31才でクリニックを開院。その直後から多忙を極め、ストレスなどからバセドウ病と、その合併症である甲状腺眼症を発症。母親もバセドウ病の発症歴がある。http://www.shibuya-skin.com/

取材・文/青山貴子、イラスト/鈴木みゆき 撮影/平林直己

※女性セブン2020年12月10日号
https://josei7.com/

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