世界中から注文殺到「ダチョウ抗体マスク」が効果的な理由を開発者が語る

一時期の枯渇状態を脱し、ドラッグストアなどでマスクを見かける機会が増えた。しかし、そのぶん、質の悪いマスクも多く出回っていて油断ならない。新型コロナウイルス第2波、第3波の襲来が懸念されるなか、新たに脚光を浴びているのが「ダチョウ抗体マスク(R)」だ。ダチョウとマスクという意外な組み合わせがなぜ生まれたのか、開発者に聞いた。

複数のダチョウたち

ダチョウ抗体を活用したマスクが、いま世界からも注目を集めている

開発者は京都府立大学学長の塚本康浩さん

ダチョウと顔を並べる塚本さん

ダチョウは、現存する鳥類の最大種。オスの成鳥は、体高2m・体重135㎏を超える。卵の大きさは鶏卵の25倍、重さは1.5㎏にもなる

5月のある日、京都市左京区の高級住宅街にある京都府立大学下鴨キャンパス。研究室の片隅にある特殊な装置を前に、何やら実験を行っている白衣姿の男性がいた。同大学学長の塚本康浩さん(51才)だ。

塚本さんは獣医学博士にして、日本で有数のコロナウイルスの研究者。海外では「ダチョウ抗体」研究の第一人者として知られ、米ハーバード大学やアメリカ政府機関とも共同研究を行っている。

◆塚本さんが設立した京都発のベンチャー企業で開発

さらに、塚本さんが設立した京都発のベンチャー企業では、ダチョウ抗体を活用したマスクやスプレー、飴などを開発し、地域活性化に貢献している。そんな塚本さん、眠そうで少々お疲れのようだが…。

「中国で新型コロナウイルスが出て感染が広まり始めてから、毎晩3時間しか寝てないんです。アメリカの感染症研究の関係者と毎日やりとりしているので、時差の都合でどうしても深夜まで起きているんですわ」(塚本さん・以下同)

すずめ、インコ、文鳥…塚本さんは子供の頃からの鳥好きが高じて獣医師になり、ニワトリでがんの研究を行い、獣医学博士になった。その後、カナダの大学の獣医学部に留学し、帰国後の充電期間中に、たまたまダチョウ牧場を見つけた。1998年頃のことだった。

「ダチョウは、鳥類では最大の鳥です。子供の頃から憧れの鳥やったから、牧場で毎週ダチョウを見てました」

それが塚本さんの運命を変えた。

「ダチョウってあんなにかわいい顔をしてるのに、脳みそは目玉より小さいんです。アホやし警戒心も強くて、物音なんかに驚いて走り出すと、目の前に木立が現れても止まらないで激突しちゃう。木の枝に首が引っかかったりするから、血だらけの大けがですわ」

うわっ、かわいそう。

「いやいや、そんな心配いらへんのです。手当てしなくても2~3日で治りますから」

その光景を目の当たりにした塚本さんは、「免疫力がすごく高いんやろな」と思った。そして、「ダチョウを使って、抗体を作られへんやろか?」と考えた。

これが、22年後のいま、世界中から注文が殺到している「ダチョウ抗体マスク(R)」誕生の始まりだった。

ダチョウ抗体の仕組み

密封された『ダチョウ抗体マスク R』商品画像

脚光を浴びている『ダチョウ抗体マスク(R)』

最近よく聞く「抗体」。これはウイルスや病原菌などに感染すると、体内で自然に作られる防御用のたんぱく質のことをいう。ちなみに、たんぱく質は肉や魚などに多く含まれ、食事で食べたものを原料に、体内でも作られる。

「たとえば、新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスが細胞の中に入り込み、増殖していきます。でも抗体があると、抗体が新型コロナウイルスにくっついて、細胞の中に入り込むのを防いでくれるんです」と塚本さん。

抗体は感染してからできるものだ。だから、抗体検査で「陽性」と判明したら、すでに新型コロナウイルスに感染したという証拠だ。

「抗体は、人間以外の動物でも作られます。けがをしたダチョウが数日で元気になるのは、免疫力が高くて傷が治りやすいからです。で、免疫力が高いということは、ウイルスや細菌に感染してできる抗体にもパワーがあるんです」

◆ダチョウ抗体マスクはなぜ効果を発揮?

特殊な処理で毒性をなくしたウイルスや細菌をメスのダチョウに注射すると、体内に抗体ができる。そして、卵にもその抗体がうつる。

「卵にうつった抗体を抽出して不織布にしみ込ませて作ったのが『ダチョウ抗体マスク(R)』です。マスクの表面にウイルスが付着した瞬間に、不織布の織り目で、抗体がウイルスの感染力を奪う。その結果、ウイルスが体内に侵入しても感染できなくなる仕組みです」

ダチョウの卵は鶏卵の25倍の大きさで、1個の卵から抗体4gを作ることができ、マスクにすると卵1個で4万~8万枚が生産できるという。

塚本さんがダチョウ抗体の開発に成功したのは2006年。2008年には、当時、問題になっていたH5N1という新型インフルエンザウイルス向けのマスクが開発された。それが「ダチョウ抗体マスク(R)」の第1号だ。

「その後、SARSやMERS、サルモネラ菌や黄色ブドウ球菌、花粉なども遮断できる抗体を開発して、マスクも作りました。医療従事者が使うサージカルマスクの一種ですから、主に医療機関や企業の備蓄用に出荷されてきました」

そして、この2月に塚本さんのもとで新型コロナウイルス用ダチョウ抗体が開発されると、マスクの発売を前に、海外から予約が殺到。当初は中国や欧米に出荷したという。

「でも、いまは国内の医療機関向けに出荷しています。『ダチョウ抗体マスクR』は、人類を感染症から守るために開発したものですけど、日本国内の医療現場でマスク不足が問題になっているのに輸出なんてできませんから」

現在は国内医療機関向けを優先しているが、「ダチョウ抗体マスクR」はインターネット通販で一般向けにも販売されている(25枚入り4500円+税~。次回出荷は12月21日以降の予定 ※『ダチョウ(カ).com』https://www.koutai-mask.com/)。

ダチョウ抗体マスクは日本製

マスクの製造光景

マスクの製造光景。日本製は検品がしっかりしている

塚本さんと共同研究で「ダチョウ抗体マスク(R)」を作ってきた製造会社は、福岡県飯塚市にあるクロシード1社。ここでは、1日8時間操業で8万枚製造できる。

「とにかく医療機関向けに急いで生産を開始したんですが、去年4月に施行された『働き方改革法』で、残業したらあかん、休日も働いたらあかんと。それで工場をフル稼働させられなかった。さらに、2月末に学校の臨時休校が決まると、子供の世話があるから、と女性従業員が休んでしまった。ダブルパンチで、マスクを大量に作れなかったんですわ」

周知の通り、日本ではマスク製造は中国やベトナムなど海外に依存している。2月末の時点で、国内のマスク製造企業は数社しかない。

「どこもクロシードさんと似たような状態やったと思いますよ。ぼくなんか、飯塚にある工場を見に行ったとき、夕飯で入った居酒屋に、運送会社で働いていたという女性がいたので、マスク工場にリクルートしたくらいです。その人、手先が器用そうやったし、仕事の手際もよさそうやったから」

◆なぜ日本製がいいのか?

休業要請で職を失った人に頼めばとも思うが、そうもいかないという。

「日本製マスクは世界一の品質です。たとえば、外国製の安い製品だと、マスクをつけて息をすると、鼻とか口にペタッとついたり、ヒモが伸びたりします。でも、日本製はそうならない。なぜなら、細部まで丁寧に作られていて、それはもう職人ワザだからです。しかも検品も、すごくちゃんとしている。そやから、そうした仕事に慣れている人が休んでしまうと、お手上げなんですわ」

たしかに、日本製マスクの品質には定評がある。466億円もの予算を割いておきながら、手元に届いてみれば不良品だらけ。その検品作業になぜかまた税金が使われ、その額8億円!という憤慨・噴飯もので恥さらしな「アベノマスク」とは比べものにならない。

ウイルスを防ぐマスク、防げないマスク

人間の頭部を模した陶器にダチョウ抗体マスクをあごまで覆って装着した画像

マスクはあごの下まで広げてつけるのが正解。よって、やっぱりアベノマスクはNG

サージカルマスク、格安のペラペラなマスク、手作りマスク…。いまや世界中でマスクが百花繚乱。しかし、つけていれば安全が確保できるというものではない。

医療現場で一般的に使われているサージカルマスクは、少し高価だが、ドラッグストアなどでも買える。これは不織布製で、3層構造だ。そして、ほとんどの製品はパッケージに、「ウイルス飛沫99%以上カット」などと書かれている。しかし、本当にウイルスを遮断できるのだろうか?

「99%以上と書かれている製品は、世界共通の一定の基準を満たしているものです。サージカルマスクの構造を説明すると、ウイルスはまず、マスクの外側の1層目に引っつくんです。でも、すり抜けてしまうウイルスもいる。そこで、ウイルスが静電気に引き寄せられやすい性質を生かして、2層目は静電気を帯びた特殊なフィルターが使われているんです」

3層のマスクにはそうした機能がある。だが、現状はマスクを洗って使い回すか、手作りマスクなどに頼らざるを得ないという人も少なくない。使い回しのマスクはどれほど効果があるのだろうか。

「サージカルマスクを洗濯すると静電気の効果がなくなるので、あまり意味がありません。布製も同様です」

◆ダチョウ抗体を利用したウイルス対策スプレーも

塚本さんはダチョウ抗体を利用したウイルス対策用スプレーやジェルも開発し、商品はインターネット販売されている(『ATPROTECTオンラインショップ』https://atprotect.jp/products/list.php)。そうしたスプレーを使い回しのサージカルマスクや布マスクに吹きかけるのも有効だという。

食品用アルコールや次亜塩素酸水をスプレーするのはどうだろう?

「はい、ある程度の効果は期待できると思います」

ただし、『ハイター』や『ピューラックス』などの一般的な製品は次亜塩素酸ナトリウムを薄めた希釈液で、ドアノブや床などの消毒用。マスクにスプレーするのは危険なので使えない。スプレーするなら専用の生成器で作ったものか、「次亜塩素酸水」として売られているものにすべきだ。

ちなみに、医療機関や研究施設などで使われる「N95」というマスク(防塵マスク」とも呼ばれ、細かい粒子の吸入防止のために用いる。建設現場で使用されていたことも)の1つに、半円形のものがある。たまに街中でも装着している人を見かけるが、

「あれは、密閉性が高くて感染予防には効果があります。でも、つけているうちに息苦しくなって、つい外したくなる。ただ、『N95』じゃなくても、マスクはつけた方が感染防止には役立ちます」

ダチョウ抗体でワクチン開発の可能性は?

新型コロナウイルスは、第2波、第3波が予想されている。

「新型コロナウイルスがどういう性質なのか、まだわかってないので、はっきりしたことはいえませんが、たぶん、収束と拡大を何度かくり返すと思いますね。ウイルスはどんどん変異するのですが、普通は何年か経つと毒性が弱まり、人間に対してそんなに悪さをしなくなります。でも、逆に毒性が強まってしまうこともある。いまは強毒化しないことを祈るばかりです」

治療薬やワクチンの開発も世界各国で進んでいる。塚本さんも、ダチョウ抗体でワクチンなどを開発する予定はあるのだろうか。

「ダチョウ抗体はつまり、即効性の治療薬なんです。ぼくは研究のために、もう自分でダチョウ抗体を注射しました。研究者って、自分の体で人体実験したくなるんです」

で、効果のほどは?

「ぼくの血液中のダチョウ抗体は確かにウイルスに反応しています。効いているんと違うかなと思います」

◆夏場のマスクの注意点

ということは、私たちもダチョウ抗体を注射できる日が来る?

「それが、日本では制約があって難しいんですわ」

やはり当面は3密を避け、手洗い、うがい、マスクで感染を防ぐ方法しかないようだ。

「もう、さんざん言われていることやけど、夏場のマスク着用は熱中症に充分気をつけてくださいね」

この先もマスク不足は続くだろう。ダチョウ抗体を利用したマスクが一般にも入手できるようになる日が待ち遠しい。

教えてくれた人:塚本康浩さん

ダチョウ抗体マスクをして、両手にダチョウの卵を持った、京都府立大学学長、獣医師、獣医学博士の塚本康浩さん

京都府立大学学長。獣医師、獣医学博士。大阪府立大学大学 院博士課程獣医学専攻修了。同大学准教授、京都府立大学生命環境科学研究科教授を経て、2020年4月に学長就任。

写真提供/塚本康浩さん 取材・文/佐々木ゆり

※女性セブン2020年6月18日号

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